May 12, 2005

『太陽の簒奪者』

『太陽の簒奪者』正統派、と言うのかも知れません。野尻抱介著、『太陽の簒奪者』。

太陽をとりまくリングが形成されて陥った人類の危機。そこから始まる異星人とのファースト・コンタクトを描いた作品です。

例によって異星人との遭遇はクライマックス。正体の掴めない、考えることも分からない相手とのやり取りが続きますが、そこに至るまで繰り出されるアイデアのコンボは、言うなれば正統派ハードSF? 好奇心で先を読みたいという気持ちにさせられたのは久しぶりでした。

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May 09, 2005

『ポンペイの四日間』

『ポンペイの四日間』歴史小説、というほど仰々しくはありません。ロバート・ハリス著、菊池よしみ訳、『ポンペイの四日間』。かと言って軽くもありませんが。映画などでおなじみの筋を連ねているので、小難しいのはちょっと、という人でも大丈夫でしょう。

古代ローマ帝国を背景にしたパニックもの……として良いと思います。タイトルにある通り、ポンペイが灰の中へ沈むまでの四日間が舞台。噴火の兆候、火山性の地震(彼らはそれとは知りませんが)の続くなか、運悪く着任することになった水道の管理官を主人公とした物語。

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April 27, 2005

『クリスタル・シンガー』

『クリスタル・シンガー』アン・マキャフリイ著、浅羽莢子訳、『クリスタル・シンガー』。続編として『キラシャンドラ』も刊行されています。

星間通信、推進装置、楽器、集積回路、レーザーの制御装置などに必要で、銀河系世界にとって重要な資源であるクリスタル。表題のクリスタル・シンガーたちが担うのは、そのクリスタルを岩場から切り出す仕事。とはいえそれは単調なんてとても呼べない、才能と運を試される危険と隣り合わせの作業。これは主人公がクリスタル・シンガーとして成長していく物語……とも言えますが、逆にシンガーの仕事に魅了され、呪いに等しい運命の虜となる物語、と言えるかも知れません。

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April 26, 2005

『ペガサスで翔ぶ』

『ペガサスで翔ぶ』ファンタジーではありません。立派なSFです。アン・マキャフリイ著、幹遙子訳、『ペガサスで翔ぶ』。マキャフリーなのか、マキャフリィなのか、マキャフリイなのか……困ります。ちなみに検索するときは「アン・マキャフリ*」が便利w

オビにある通り『ペガサスに乗る』の姉妹編であり、合わせて超能力者の活躍する<九星系連盟シリーズ>幕開け前夜という趣きの二冊。本書は、シリーズ全体を通してキーアイデアとなる「電気的ゲシュタルト」――発電機や機械動力から得たエネルギーを利用して爆発的に超能力を増幅する――という能力を発現した少年を中心に描かれています。

脊髄損傷で動かなくなった身体に絶望するこの少年。違法児として(ときにその潜在的超能力以上の)したたかさを発揮し生活してきた少女。この二人を保護しながら、事件や問題の解決に奔走する超能力センターの面々。シリーズ傍流という位置づけのせいか、まとまりはやや欠いている感がありますが、そのぶん多彩なエピソードが詰まった一冊です。それぞれのキャラクターに見所があり、個性が発揮されているところを楽しむべきでしょうね。

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April 25, 2005

『竜の歌』

『竜の歌』SF? ファンタジー? アン・マキャフリイ著、小尾芙佐訳、『竜の歌』。現在15冊を数えるパーンの竜騎士シリーズ。その中でも、この『竜の歌』に始まり、『竜の歌い手』、『竜の太鼓』と続く<竪琴師ノ工舎>三部作を気に入っています。

このシリーズの舞台は、空から降る糸胞の脅威にさらされている惑星パーン。ローテクの文明まで退化し、糸胞と戦う唯一の手段は炎を吐き、空間を跳躍する能力を持つ竜のみ。操るはテレパシーのような絶対の絆で結ばれた竜騎士。この竜と竜騎士を中心に、糸胞に立ち向かうパーンの人々を描いた一大サーガです。

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April 17, 2005

『軌道通信』

『軌道通信』ところ違えど。ジョン・バーンズ著、小野田和子訳、『軌道通信』。独特の言葉遣いに溢れていますが、主人公により生き生きと語られる友人関係の悩みや淡い恋愛の一歩一歩に、思わず知らず引き込まれてしまいます。

荒廃した地球から逃げ出そうと、宇宙船の建造や火星のテラフォーミングが急速に進みつつある近未来。小惑星をくり抜きつつ建造中である宇宙船の内部社会と、その宇宙船の乗務員となるべく、極端に社会性や協調性を重視したプログラムで教育される子供たちを、その中でやや異端である少女の目を通しリアルに描いた作品です。

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April 16, 2005

『緑の少女』

『緑の少女』上『緑の少女』下このタイトルと表紙はモンダイでは? エイミー・トムスン著、田中一江訳、『緑の少女。少女が主役のファンタジーと間違えて手に取る人が多そう。でも実際にはこってこてのSF。原題は"The Color of Distance"。こちらの方が含蓄は深いと思いますが、抽象的すぎるという理由で邦題は変更されたのでしょうか?

異星の生態系を探査中、事故で瀕死となった主人公はそこに住むエイリアンに救われ、一足先に地球へ帰還した調査隊が再び戻るまで、現地で生活することに。もっともこのエイリアンと言うのが基本的には両生類型で、自分や他者の生理化学機能を自在に操る特殊能力を持ち、体表面に浮かべる色や記号を用いた視覚言語で会話する、という人類とは相当に隔たった生き物。こんなエイリアンと人類とのファースト・コンタクトから、双方に起こる変化を描いた作品です。

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April 15, 2005

『ヴァーチャル・ガール』

4150110794表紙で買いました(赤面)。エイミー・トムスン著、田中一江訳、『ヴァーチャル・ガール』。

人工知能が違法とされた近未来世界で、人間そっくりの体と人工知能を備えて誕生した主人公の、その成長を描いた作品。しかし、主人公自身に関するいかにもSF的「ヴァーチャル」な描写がある一方で、ホームレスら社会の底辺に生きる人々の生々しい生活に関する「リアル」な描写も手を抜いていません。ロボットと人間、無垢と汚れ、思いやりとエゴ。そんな「ヴァーチャル」と「リアル」の対比が、この作品に奥行きを与えています。

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April 14, 2005

『戦う都市』

『戦う都市』上『戦う都市』下『戦う船』ではありません。アン・マキャフリー、スティーヴン・マイケル・スターリング著、嶋田洋一訳、『戦う都市。<歌う船>シリーズの紹介は前作で区切り、と思っていたのですが、久しぶりに読んだらけっこう面白かったのでした。

シリーズの中では異色作と言って差し支えないでしょう。神経系をハードと直結した<殻人>をテーマに据えたこのシリーズ。他の作品では<殻人>は宇宙船(<頭脳船>と呼ばれる)に乗って冒険の旅に出ますが、この作品では宇宙ステーションの管理人として「据えられて」います。しかし普段の仕事は地味ながら、直面する危機は半端じゃありません。この非武装のステーションとその住民を、凶悪無比の宇宙海賊から守らなくてはならないのですから。

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April 13, 2005

『旅立つ船』

『旅立つ船』このオチはアリ? アン・マキャフリー、マーセデス・ラッキー著、赤尾秀子訳、『旅立つ船』。昨日、紹介した歌う船』シリーズの作品です。

もともとアン・マキャフリーの『歌う船』は'60年代に発表されてそれっきりだった作品ですが評価は高く、'90年代から彼女と若手作家との共作という形でシリーズ化されました。この『旅立つ船』は<ヴァルデマール年代記>で有名なファンタジー作家(もともとはSFから書き始めたそうですが)マーセデス・ラッキーとの共作です。

前作の魅力として構成の妙を挙げました。短編オムニバスと言う形式が切れとテンポを生んでいるという意味だったのですが、その点で言うと長編一本である本作は、やや冗長な感があります。これは傑作でないから面白くない、という意味ではなく、それでも面白いものは面白いの意味なんですけど。だって、ホント好きなンですよねエ、コレ。長編ならではの人間関係の描き方や、伏線も効いていて。

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