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May 17, 2005

『タッチ』

『タッチ』最初から織り込み済みだったらゴメンナサイ。あだち充作、『タッチ』。

冒頭の言葉のとおりです。『タッチ』を『タッチ』たらしめているのは、準主人公でありライバルだった弟の死、という(恐らく最初からは計算されていなかった)イベントと思うのです。このイベントを境に、双子の兄弟と幼なじみの女の子の三角関係というラブコメ路線から急転換。単なる熱血ではなく、弟の死が端々に影を落とすどこか切ないスポ根ものに変貌を遂げます。

ライバルの死、という要素だけで言えば『あしたのジョー』と被るかも知れません。その死によって、目標への強い動機の植えつけられる点が同じ。ただ『タッチ』では三角関係という要素があることで、二重の枷がはめられています。甲子園出場を果たさなければならず、それができなくては恋人と幸せになってはいけない。

親しい人間の死、そしてその空白を埋めようとする心の動き。それだけでも共感するに十分な流れではあります。そこへ加えて、ライバルでもあった弟を越えなければならないという強い動機付け、その誓いをストイックに守ろうとする主人公の姿が、より広範な支持者を生む力となっているのでしょう。

むろん魅力的なヒロイン、個性的な脇役やエピソード、どこまでも二枚目な敵役など、それ以外の部分も良いのですが、シリアスなストーリーとの対比によってそれらがより生きている、という面は否定できません。……「死」という決定的に負のイベントが、日常のささやかな陰影を際立たせた、とも言えるかも。

いつ打ち切りになるかわからない少年誌の週刊連載において、長期的な構想をもって望むのは実質的には無理なことでしょう。ライバルの死、という要素を入れようとしても、冒頭から死んでいる方が収まりは良いはず。そうなれば必然的に影は薄くなってしまいます。

冒頭の三角関係の中で存在の大きさを読者と共有しているからこそ、そのライバル(弟)の死を最後まで引っ張ることができ、さらにそれがストーリーの芯にもなった。とすれば、(いなくなるキャラには悪いけれど)このイベントは何とも素晴らしい思いつき。そして織り込み済みだったとすれば、賭けに勝ったというところでしょう。

そういう意味で作者にとっても読者にとっても非常に幸運な作品、と言えると思います。


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