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May 25, 2005

『くにたち物語』

『くにたち物語』こんなときもありました…正確にはありたかった、かな? おおの藻梨以作、 『くにたち物語』。既刊は講談社漫画文庫で6巻ですが、復刊が決定しました。その昔に読んで続きが出ていないのがショックだったので、ものすごく楽しみにしています。

6巻で主人公の小学二年生から中学生までの話です。恐らくは作者の個人的な経験や思い出をエピソードにしているのでしょう。生活感や臨場感に溢れた日常の描写に加え、ときに繊細で懐かしくもある心理描写がこの作品の魅力。特に奇をてらっていない登場人物たちでも、そこに究極のローカル、隣にいる誰かのような個性的で無二の人物として感じられるはずです。自分は男子校だったのでこんな体験はしようにもできなかったのですが(笑)、読んでいる間だけは同じ年頃で、その場にいるような気持ちになれます。

もういい大人になって、年を重ねるにつれ一日一年の流れが早くなってきました。同じ季節、同じ生活の繰り返し部分を(CMを飛ばすように)早送りするよう。時間の比重が小さくなったのでしょうか? 十代の頃は時間の流れが何とも遅く、いつまで経っても先が見えずイライラすることもあったのに。

この作品で主な舞台となる中学生の時分には、一日や一年はそれぞれが確かに違う時間で、(月並みな言い方をすれば)いつも期待と不安に心躍らせながら次の時間を迎えていて、だからこそ繰り返しなぞ意識せず過ごしていけた、だからこそ時間の比重が大きかったのでしょう。

さながら思い出を順に語っていくようなこの作品の流れには、その年頃のナマの時間が息づいています。同時に、未来に対する期待と不安が作り出す緊張が、話のお決まりや約束事、定型や構造なんぞ吹き飛ばしてしまうようです。

好きな人とがわかればあとは一足飛びに関係が進む、というのはある種のお決まり。実際にはなかなかそんなに上手くは行きません。これは読者を飽きさせないためのウソとさえ言えるかも。ところが傍から見れば遅々とした関係でも本人たちはギリギリで、飽きるどころではなかったりするのが実際でしょうね。

たいていのお話は読者という第三者から見て面白い恋愛にしますが、この作品では細かい描写によって関係者の視点を持たせられてしまいます。自らの感情も持て余す彼らの恋愛も、中学生では仕方のないところ……ただ中学生なりに真剣なのです。大人から見ればまっすぐの道で、わざわざ右往左往する彼らに共感してしまったなら、そのときは再刊で出会える彼らの成長を楽しみでたまらなくなるはずです。


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