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April 12, 2005

『歌う船』

『歌う船』人間的なSFの理想のひとつ。アン・マキャフリー著、酒匂真理子訳、『歌う船』。

突飛な設定と戯れるだけのSFも時には良いのですが、手元に置く価値があるのは、想像力の及ぶ限りの彼方から逆を振り返って現実を俯瞰してみせる、そんな回帰するSFだと思っています……何言っているか自分でもわからなくなってしまいました^^; 要するに、SFでも現実に通じる普遍性あるテーマを持っていて欲しい、ということです。その点で、この『歌う船』はSFな設定と、一人の少女がパートナーを得るまでの紆余曲折、という普遍的なテーマをマッチさせた理想的な物語と言えるでしょう。

何だか解体すると没個性な話に見えますね。確かに骨格はそう言えるかも。しかし、この本の魅力のひとつは構成に由来していると思います。六話の短編を集めたオムニバス形式で、それぞれの密で早い展開が読み手を引きつけて離しません。

またそれぞれの短編の持つ主題も多彩です。<頭脳船>としての主人公が初めてパートナーである<筋肉>を得て、彼を失う『歌った船』。その悲しみを抱えたまま、宇宙病渦巻く惑星へ物理療法士と共に赴く『嘆いた船』。十万人分の受精卵を運ぶ『殺した船』。未知の科学技術と交換に異星人の前でシェイクスピアを上演する『劇的任務』。失踪した<頭脳船>捜索の途中で危機に陥る『あざむいた船』。そしてこれはノーコメントで良いでしょう、『伴侶を得た船』。そう、骨格は没個性ながら肉付けしてあるエピソードは何とも個性的で、同時に深いテーマも表現し得るものばかり。個人的には生と死の対比が際立つ『嘆いた船』と『殺した船』が好みです。

さらに主人公の魅力も忘れるわけには行きません。<頭脳船>でありながら表題どおり歌うことに喜びを見出す彼女は、肉体は持たずとも極めて人間らしく描かれています。感情豊かでありながら、思慮深さもあわせ持ち、ユーモアも忘れない。そんな彼女がパートナー―<頭脳船>である彼女にとって公私両面での―を探し、見つけるまでの物語。仕事と結婚の両立に悩む現代女性だけでなく、男性においても共感し得るものと思いますが、いかがでしょうか?


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