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April 27, 2005

『クリスタル・シンガー』

『クリスタル・シンガー』アン・マキャフリイ著、浅羽莢子訳、『クリスタル・シンガー』。続編として『キラシャンドラ』も刊行されています。

星間通信、推進装置、楽器、集積回路、レーザーの制御装置などに必要で、銀河系世界にとって重要な資源であるクリスタル。表題のクリスタル・シンガーたちが担うのは、そのクリスタルを岩場から切り出す仕事。とはいえそれは単調なんてとても呼べない、才能と運を試される危険と隣り合わせの作業。これは主人公がクリスタル・シンガーとして成長していく物語……とも言えますが、逆にシンガーの仕事に魅了され、呪いに等しい運命の虜となる物語、と言えるかも知れません。

というのもこのクリスタル・シンガー、クリスタルの産地の惑星に降り立てば共生生物を受け入れざるを得ず、それによって超人的な感覚と高い治癒能力、非常な長命を得る代わりに、惑星を長期間離れることができなくなり、生殖能力は失われ、さらに記憶力の減退に悩まされることになります。

質の良いクリスタル鉱山を発見すれば一攫千金ですが、それによって安穏とした生活を送れるわけではありません。クリスタルの反響音のため生き地獄となる大嵐を避けて、定期的にやや長いバカンスへ。そこで稼いだ金を浪費し、また切り出しに戻る。そんなサイクルを繰り返すうちに寿命の尽きた家族はいなくなり、友の顔さえ思い出せなくなった挙げ句、切り出し中の事故などで死ぬ。ね、あまり一般的に良い人生とは言えないでしょう?

言ってみれば性質の悪い、呪われた惑星かも。しかしそこでの生活は決して悲惨には描かれません。金銭的には裕福だし、子供ができないことを覚悟すれば恋人もできる。もちろん記憶力の減退が始まるまでは仲間も。さらにはクリスタルを切り出すときの恍惚! それらに関する細やかな描写が、フツウの価値観からは逸脱するかもしれないシンガーたちの幸福を疑似体験させてくれます。

本書で描かれる祝福と呪縛の不可分な対立は、ひょっとしたら作家や芸術家の才能に関しても同様かも知れない。創作の喜びと苦しみと。そんなことを考えてしまいました。

続編の『キラシャンドラ』では、主人公は南国のリゾートを思わせる惑星で冒険と恋愛を繰り広げます。それはそれで楽しいけれど、ややありきたり。人生や幸せに対して矛盾した定義を突きつける『クリスタル・シンガー』の方が好みです。……という人はシンガー向きの性格かも?


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