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March 30, 2005

『妻を帽子とまちがえた男』

『妻を帽子とまちがえた男』示唆に富む一冊。オリバー・サックス著、高見幸郎・金沢泰子訳、『妻を帽子とまちがえた男』。

オリバー・サックスは、個々人の間にある多様性という名の絶望的に深い溝を見せますが、同時にその溝の反対側の世界への眼差しも忘れていません。主観や生き方を共有できないからと言って矯正したり否定したりするのではなく、(主に医学的な見地から)できる限り理解するという彼の穏やかな肯定の姿勢には、読むたびに新しい視点を与えられる思いです。

今回、いろいろ考えてしまったのは盲目の彫刻家のエピソードです。介護されることが当たり前だった両手の不自由な盲目の老女。介護を控えめにして自発的にその両手を動かすようにしてみると、やがて天性の芸術家の才能が花開いたという話。学生時代の記憶から、頑張って勉強というイメージを忌避する大人たちの中にも、ひょっとしたら天才が眠っていたりして。そして眠ったまま目が覚めない。

ゆとり教育による基礎学力不足が問題視されているようですが、基礎は押さえつつその先は個人に任せる、というような多様性重視の教育法が確立されない限り、また画一的な押し付け教育に逆戻りするような気がします。ただでさえ少ない人的資源なのに、その中の天才を眠らせてしまうような教育なら、ゆとりなんて言わずいっそ無い方がマシでは。

ノーベル賞や先端研究を重視するなら、学力テストの国際競争なんて無視すれば良いし、後者を重視するなら前者なぞ気にしなくても良い。両立させたいなら、それなりの方法論を確立しろ、という話。何やら護送船団方式云々と似た流れですかね。

そもそも、どの程度を基礎学力・常識とするのかという議論を、画一的な教育により画一的な常識を詰め込まれた集団で行っていることは自覚されているのでしょうか。少なくともその不自然さくらいは認識していて欲しいものですが。オリバー・サックスの本を読んで主観や常識を揺さぶってみなさい! って、え、こんなオチ?


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