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February 14, 2005

『いたいけな瞳』

no image大人買いして昨日、読了。吉野朔実作『いたいけな瞳』全五巻。

淡く澄んだイメージに満ちた短編集。かと言って甘さだけでなく、苦味や毒気もきちんと効いています。

あらゆる色を混ぜながらひとつの調和を目指しているようにも、見慣れた箱庭の中で新たな発見を探しているようにも読めました。

ストーリーの語り口を大雑把に分類すると、壮大さや劇的な手法を盛り込んだ物語タイプと、目線を一般人に近づけた随筆タイプがあると思いますが、吉野朔実は明らかに後者です。どれだけ非凡な筋書きの中に非凡な人物を登場させても、生活感漂う日常を描写する。またそれが端麗な画面や詩的な台詞の合い間にあるというミスマッチが、ひとつの面白さだと思います。

また、吉野朔実作品を続けて読んでいると、共通するモチーフを驚くほど繰り返し用いていることに気づきます。気づいてしまえば、それは必ずしも心地良いものではないかもしれません。しかし今回、久しぶりの吉野作品では、そうしたモチーフが思ったほど気にならない。むしろ安心しながら読めることに驚きました。これは「水戸黄門効果」(*1)?

どんなに奇をてらい見た事のない話を目指しても、いくつも話を作っていれば、多かれ少なかれ同じようなモチーフが混在するのは避けられないこと。それをマンネリと解釈するか、作者の個性と解釈するか、読み手の主観によるところかもしれません。吉野朔実作品におけるそれは、背伸びしない、地に足ついた語り口によって、より際立ってしまっているのでは。そんなことに気づいた次第です。

*1 祖母による、水戸黄門は安心して観れるから好き、との発言による。


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